仏説 無量寿経 四誓偈

(はじめに)

四誓偈は、『無量寿経』というお経のなかの一節です。
理解を深めるためには、『無量寿経』のあらすじをお読み下さい。

  以下、一行目の太字に原文を示します。
  二行目の(  )内は、その書き下し文です。浄土宗の伝統的な読みです。
  三行目の赤字は、その現代語訳です。四季社『経文傍訳浄土宗読誦聖典』を参考にしました。
  四行目は私による解説です。伝統的な解釈を越えた主体的な理解をめざしておりますが、
  私自身納得できていない箇所も多々あり、何かあればご教示くだされば幸いです。

    がごんちょうせがん  ひっしむじょうどう  しがんふまんぞく  せいふじょうしょうがく
(1)我建超世願 必至無上道 斯願不満足 誓不成正覚

(我れ超世の願を建つ 必ず無上道に至らん この願満足せずんば 誓って正覚を成ぜじ)

私、法蔵菩薩は、世にすぐれた四十八の誓いを建てました。
かならずこの上ないさとりの世界に達しましょう。
この願いが成就しないというならば、
誓って覚りを得ることはありません。

昔むかし、私たちの世俗の知恵では測りきれない《願》をおこした何かがありました。
その《願》をたてた主を、法蔵菩薩と呼びます。
その《願》は、まず、自らが宇宙の《真理さとり》に合一せんとする誓いでした。

    が お むりょうこう  ふ い だいせしゅ  ふ さいしょびんぐ せいふじょうしょうがく
(2)我於無量劫 不為大施主 普済諸貧苦 誓不成正覚

(我れ無量劫において 大施主となって あまねく諸々の貧苦を救わずんば 誓って正覚を成ぜじ)

私はこの先いつまででも、
大いに恵みを施す主となって、
貧しく苦に苛まれている多くの者を、一人のこらず救えないというならば、
誓って覚りを得ることはありません。

その《願》は、ふたつめには、ありとあらゆる恵み・施しを行って
自分の名を呼んで助けを求める者の心を最後の一人まで救おう、
それまでは自分もその者たちと共に迷い苦しもう、という誓いでした。

    がしじょうぶつどう みょうしょうちょうじっぽう くきょうみしょうもん せいふじょうしょうがく
(3)我至成仏道 名声超十方 究竟靡不聞 誓不成正覚

(我れ仏道を成ずるに至らば 名声十方に超え 究竟して聞ゆる処なくんば 誓って正覚を成ぜじ)

私が覚りの世界を完成したならば、
私の名前が十方の世界にまで響きわたることでしょう。
すみずみまで響きわたらないというならば、
誓って覚りを得ることはありません。

その《願》は、みっつめには、世界中のあらゆる存在が自分の名をたたえる、
言い換えれば、あらゆる物事・出来事を通して、
迷いの人々に働きかけよう、という誓いでした。

    りよくじんしょうねん  じょうえしゅぼんぎょう しぐむじょうどう  いしょてんにんし
(4)離欲深正念 浄慧修梵行 志求無上道 為諸天人師

(離欲と深正念と 浄慧との修梵行をもって 無上道を志求して 諸々の天人師とならん)

欲望を離れること、正しく精神統一すること、
浄らかな智慧をきわめること、これらの清浄な修行につとめることで、
心からこの上ない覚りを求めて、
多くの天界の神々の導師となりましょう。

この《願》を実現するために願の主は、
迷いのもととなる世俗的な生きがいを捨て、清浄なる心に住して、
《真理》との合一をはかったのです。

    じんりきえんだいこう  ふしょうむさいど  しょうじょさんくみょう  こうさいしゅやくなん
(5)神力演大光 普照無際土 消除三垢冥 広済衆厄難

(神力大光を演べ あまねく無際の土を照らし 三垢のやみを消除して 広く諸々の厄難をすくい)

仏は、はかり知れない力で大いなる光を放ち、
果てしない世界をあまねく照らして、
三つの垢(貪り・怒り・愚かさ)の闇を取り除き、
多くの厄難に苦しむものを救い、

願の主は、《真理》の働きを知っていました。
《真理》の働きは、全世界の迷える人の心に入り込んで、
迷いのもとである《むさぼり・いかり・おろかさ》を消し去るのです。

    かいひちえげん  めっしこんもうあん  へいそくしょあくどう  つうだつぜんじゅもん
(6)開彼智慧眼 滅此昏盲闇 閉塞諸悪道 通達善趣門

(彼の智慧の眼を開いて この昏盲の闇を滅し 諸々の悪道を閉塞して 善趣の門に通達せしめ)

彼らの智慧の眼を開いて、
その暗い闇をなくし、
多くの悪しき世界を閉じ、
善き世界に導き、

そうして《真理》の働きは、迷える人々の眼を開かせて心の迷いを消し去り、
迷いの結果として人々が苦しむ世界を終わらせ、
開いた眼で世界を平安なるものにさせます。

    く そじょうまんぞく  いようろうじっぽう  にちがつしゅうじゅうき  てんこうおんぷげん
(7)功祚成満足 威曜朗十方 日月収重暉 天光隠不現

(功祚満足することを成じて 威曜十方に朗らかなり 日月重暉を収め 天光も隠れて現ぜず)

福徳を完全に満たして、
その威厳ある輝きを十方にまでいきわたらせます。
そのため太陽と月の輝きは見えなくなるほどで、
天界の光さえも隠れて消えてしまうでしょう。

その《真理》の働きは、全世界の誰が見ても絶対的なるものであり、
あらゆる存在と比べてもなお、絶対的なるものであります。

    いしゅかいほうぞう  こうせ く どくほう  じょうおだいしゅじゅう  せっぽうし し く
(8)為衆開法蔵 広施功徳宝 常於大衆中 説法師子吼

(衆のために法蔵を開いて 広く功徳の宝を施し 常に大衆の中に於いて 説法獅子吼したもう)

衆生のために仏法の蔵を開いて、
福徳の宝をことごとくに施し、
いつも多くの人々の中で、
獅子のような気高い声で法をお説きになります。

その《真理》の働きは、単に絶対的なるのみでなく、
常に迷いの人々に働きかける、恵み・施しの利他の働きであります。

    くよういっさいぶつ  ぐ そくく どくほん  がんねしつじょうまん  とくいさんがいおう
(9)供養一切仏 具足衆徳本 願慧悉成満 得為三界雄

(一切の仏を供養し 諸々の徳本を具足し 願慧悉く成満して 三界の雄となることを得たまえり)

すべての仏に供養し、
多くの福徳をそなえ、
誓願と智慧をすべて満たし、
三界(欲界・色界・無色界)で最も猛々しい存在になられました。

その《真理》の働きは、単に利他なるのみでなく、
みずからが《真理》を志向して行をおこなう働きであります。
このようであるから、迷いの世界を超えた働きなのです。

      にょぶつむ げ ち  つうだつみふしょう  がんがく え りき  とうしさいしょうそん
(10)如仏無礙智 通達靡不照 願我功慧力 等此最勝尊

(仏の無礙智の如きは 通達して照らしたまわずということなし 願わくは我が功慧の力 この最勝尊に等しからん)

仏の障りのない智慧は、
どこまでもいきわたり照らしつくさない所はございません。
どうか私の福徳の力によって、
このような最も勝れた尊者(仏)と等しくなりますように。

世界に満ち満ちている《真理》の働きを、願の主は知っておりました。
その《願》は、よっつめには、自らが《真理》を誉め称えながら、
それに合一せんとする誓いでありました。

      しがんにゃっこっか  だいせんおうかんどう こくうしょてんにん とううちんみょうけ
(11)斯願若剋果 大千応感動 虚空諸天人 当雨珍妙華

(この願もし尅果せば 大千まさに感動すべし 虚空の諸々の天人 まさに珍妙の華をふらすべし)

この誓いが達成したならば、
三千大千世界は感じて揺れ動くにちがいありません。
虚空中にいる多くの天界の神々は、
美しくみごとな華々を雨のようにふらせるでありましょう。

もしこの《願》が実現して、人に働いたならば、
それに呼応して世界は大転回し、
その人は喜びにあふれて生きることでしょう。